出雲 雅志 ゼミナール

研究課題 経済ゼミナールⅠ 「貧困と戦争」
経済ゼミナールⅡ 「貧困と現代社会」
経済ゼミナールⅢ 「現代社会と人間」

研究内容

  1. <大切なこと>ゼミでもっとも大切にしたいのは、インターネットの情報や本を読んでわかったつもりになることではなく、ひとりひとりが自らの目と耳と足と頭を使って、この世界の現実から取りあげなければならない問題を見つけだし、あわてて結論や答をださずに、ゆっくりと歩きながら考えることです。日本には、有吉佐和子や石牟礼道子、茨木のり子など、だれよりもずっと広く深くこの世界の現実に目を凝らしてきたひとたちがいます。そのひとりで14歳から銀行で働きつづけ、やがて日本を代表する詩人となった石垣りんのすぐれた詩「くらし」を紹介しましょう。 食わずには生きてゆけない。
    メシを/野菜を/肉を/空気を/光を/水を/親を/きょうだいを/師を/
    金もこころも/食わずには生きてこれなかった。
    ふくれた腹をかかえ/口をぬぐえば/台所に散らばっている/にんじんのしっぽ/
    鳥の骨/父のはらわた/四十の日暮れ/私の目にはじめてあふれる獣の涙。
  2. <世界の現実>人間はたったひとりで生きていくことはできません。だれもが自然と人間、人間と人間とが織りなすネットワークにつつまれて生きています。地球のどこかで流されている一粒の涙にさえ、人間の歴史や世界の現実が結晶しているのを知れば、自分の喜びや幸せがたくさんの人々の悲しみや不幸のうえになりたっていることを、いやでも考えずにはいられません。9人に1人が飢えに苦しみ、貧富の差が拡大しつづける世界。発展や開発という名のもとにすすむ地球規模の環境破壊。次々に絶滅していく多様な動植物の種。資源や権力をめぐって世界各地で相次ぐ悲惨な争い。日本の繁栄の陰で黙殺されてきたアイヌや沖縄の人たち、在日コリアン・中国人、外国人労働者の問題。人間の尊厳をふみにじられた元日本軍「慰安」婦の人たちの苦悩。故郷を追われてさまよい歩く難民・棄民や野宿を強いられている人々の苦難、原発災害でふるさとを奪われ家族もばらばらにされたひとびと――。私たちの毎日の「くらし」は、一見すると遠く離れているように見えるこうした問題とどこかで深くつながっているのです。
  3. <経済学>経済学は戦争や貧困をなくすためにうみだされました。マネーゲームや金儲けのためではありません。いまでは大学ですら批判精神を失って官僚化する時代です。威勢のよい狭隘なナショナリズムの合唱やまるで「戦前」のような雰囲気が世界に広がっています。しぶとくしなやかに抵抗する精神を大切にしたいと思います。
  4. <目標>本を読むのは大切なことです。しかし、同時に、小さなものに目を向け、現実のなかから問題をつかみだすことが重要です。経済学という枠組みにとらわれることはありません。なにが大切でなにが大切でないのかをみきわめることが必要です。できるだけ国内外のさまざまな「現場」へ出かけ、多くのひとたちとふれあい、だれもが人間らしく生きられる世界とはどのようなものかを問い、悩み、考えつづけることをめざします。
  5. <特色>学生が教員から教わることは少ないかもしれません。教員が学生から学ぶことはたくさんあります。新たな発見や独創の契機はたいてい「学校」や「教科書」の外にあります。アジアの辺境を歩きながら考えつづけた鶴見良行のように「地べたの人や物や事例に心をときめかす」ことからはじめようと思います。

指導方針

  1. <批判と笑いの精神>ゼミはものごとを批判的にみる目を養い、自由にのびのびと学び語らいあう場です。なにかを知り考えるためには、なによりも自分以外のことに関心をもつことが必要です。同時に、すべてを疑う勇気とひとの意見に耳を傾ける謙虚さ、それに画一的でこわばったものを笑い飛ばすおおらかな精神も大切です。
  2. <ひとりひとり>ゼミは、ひとりひとり異なるそれぞれの個性や意見を尊重し、感覚も立場も異なることを前提にお互いに協力しあうことを学ぶところです。「仲良しグループ」をつくる場ではありません。仲間うちの「やさしさ」はときとしてだれかを暴力的に排除することもあります。
  3. <不服従>ゼミは、教員のいいなりになったり、追従したりするところではありません。ゼミはゼミ生自身の意思と努力によってつくりあげるところです。
  4. <ゼミの2年半>2年生は本を読むとともにあちこちへ出かけ、3年生は共同研究を行って毎年12月に開催される日本学生経済ゼミナール大会に参加し、4年生は卒論を書きます。春と秋に全学年合同のゼミ合宿を開催します。国内外への調査・研修旅行を行うこともあります。たくさんの人たちとの交流も、おいしいものを食べることも、どちらも大切にします。

指導教員プロフィール

専門分野 経済思想・社会思想の歴史
主要業績 『市場社会の検証』(共著)ミネルヴァ書房
The Reception of David Ricardo in Continental Europe and Japan(編著)Routledge
Malthus Across Nations(編著)Edward Elgar
担当講義名 経済学史Ⅰ・Ⅱ、経済哲学Ⅰ・Ⅱ

教員より新ゼミ生へ一言

  1. <歓迎>とくに次のようなひとを歓迎します。ラーメン屋の行列に並ばないひと、料理をつくるのが好きなひと、流行の本や映画に飛びつかないひと、友人をそのひとのために批判できるひと、野宿者やひきこもりをバカにしないひと、肩書きや出身をひけらかす権威主義者を笑い飛ばせるひと、むやみにいばらず卑屈にもならないひと、海外留学を希望するひと、落語や能・狂言など古典芸能に関心があるひと、そして、ほほえみのすてきなひと……。
  2. <国際化>国際化とは外国語がぺらぺら話せるようになることを意味するのではありません。海外に信頼しあえる友人をつくることこそ本当の国際化といえます。そのために海外の学生との交流ができるような機会をつくりたいと考えます。
  3. <共同研究>共同研究や卒論のテーマは学生が自由に自主的に決めています。これまで3年生の共同研究のテーマには、うなぎ、輸入野菜、外国人労働者、コーヒー、ストリート・チルドレン、塩、紙、フェアトレード、砂糖、カップラーメン、ファッション、難民、児童労働、トイレと水、食と環境、広告と宣伝、貧困と格差、豆腐、野菜、缶詰、地域おこし、廃油再利用、ラーメン、小麦、魚、水質汚染、アートとまち、パン、食料廃棄、牛乳、産直、出汁、コメ、ダークツーリズム、視覚聴覚障がい支援、などといった問題がとりあげられてきました。
  4. <ナウシカとコロナ>2011年3月11日におきた原発震災は、経済成長と効率だけを求めてきた現代社会のゆがんだ構造を根本から考えなおす必要をあらためて教えてくれました。まさか「ナウシカ」の世界が現実のものとなるとは……。さらに、2020年には新型コロナウイルスの感染拡大によって世界の常識がひっくり返るような出来事が続きました。しかしそれらが現実のものとなった以上、この世界の片隅に生きる多様なひとたちといっしょに、どう生きていったらよいのか、先人たちの知恵に学び、ともに考えていきたいと思います。

選考方法

  1. <ひとり>たとえひとりになっても、自分の意志と考えにもとづいて、勇気をもって判断し行動できるひとを歓迎します。同じクラス・サークルや同じ高校の出身者などが連れ立って参加することは認めていません。サークルやアルバイトをゼミよりも優先したいひと、ゼミを他の講義と同じように考えているひとは、ご遠慮ください。
  2. <課題と面接>ゼミを希望するひとは、資料やアンケート用紙などをあらかじめ受けとってください。アンケートのほか、課題にもとづく1,200字程度のレポートを提出してもらい、面接を行って選考します。
  3. <期待するひと>成績のよしあしとは関係なく、なんにでも興味をもち、海外をはじめどこへでも出かけようとする意欲的なひとを歓迎します。

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